ハーグ条約について


 ハーグ条約は,正式名称を「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」といい,国外への子の連れ去りの問題に関して,元の居住国への返還や面会交流について定めた条約です.

 世界的には1980年に成立しましたが,日本は2014年にこの条約に加盟しました.

 日本では批准されて間がないため事例が多くありませんが,世界的には歴史のある条約であり,様々な判例の集積があります.

 

 この条約の目的は,国外への連れ去りは子の生活環境を急変させることから,子どもの親権などが決まる前の段階で,他方の親の同意なく子どもの居住国を変えさせないようにし,子どもの親権などについては,もともと住んでいた国の司法の場で判断するようにしようというものです.

 つまり,裁判が終わるまでの一時的な居住国を固定するための条約であり,子が成人するまでの監護者や居住国を決める手続ではないことがポイントです.

 

 ハーグ条約では,⑴16歳に達しない子について,⑵もう一方の親の監護権を侵害して,⑶ハーグ条約締約国から他の締約国に連れ去り,又は留置(渡航したまま返さない)した場合,子の返還を求めることができるとされています.

 

 子の返還についての具体的な制度としては,まず中央当局による援助があります.日本の場合は外務省がこれに当たります.

 今現在子どもがいる国の中央当局は,子どもが任意に返還されるための援助をすることになっています.

 日本の場合,外務省に援助申請が受理されると,子の所在の特定作業のほか,第三者機関を介した話合い(ADR)による解決のあっせんなどが行われます.

 

 また,子が任意に返還されない場合,司法当局等が返還決定を迅速に行うこととされています.

 日本の場合は,裁判所での子の返還申立てという手続がこれに当たります.

 ただし,審理の結果,次のいずれかの返還拒否事由に該当する場合,裁判所の判断で,返還しなくてもよいと判断される場合があります(該当すれば必ず不返還の判断がされるとは限りません).

 ⑴連れ去りから1年以上経過し,子が環境に適応していること

 ⑵もう一方の親が現実には監護権を行使していなかったこと

 ⑶連れ去りについて同意,黙認をしていたこと

 ⑷返還により子が心身に害悪を受け,又は他の耐え難い状態に置かれる重大な危険があること

 ⑸子の意見を考慮するのに十分な年齢,成熟度に達している場合で,子が返還を拒んでいること

 ⑹返還が憲法上認められないこと

 したがって,返還を求める裁判では,返還拒否事由を満たすかどうか,満たす場合に返還を拒否すべきかどうかが争われることが多くなります.

 

 なお,日本の裁判所では東京地裁と大阪地裁にのみこの手続の管轄権がありますので,お住いの地域により,このいずれかで手続が行われることになります.

 また,この決定は,原則として6週間以内に行われることとされ,6週間を超えるときは,遅延の理由の説明を求めることができるとされています.これは,裁判手続きでは異例の短期間であり,この手続中は,連日開催される調停期日に参加しながら,合間に打合せを行い,主張・証拠書類を作成・翻訳・提出し,審問に向けた準備をしなければならないため,依頼人ご本人も代理人弁護士もきわめて多忙となります.

 

 そして,子が所在する国の司法機関は,子が自国に不法に連れ去られたとの通知を受けた後は,不返還の決定がされるまでの間,子の監護についての裁判ができません.つまり,子の親権などを決める離婚の手続は,ハーグ条約の手続の結論が出るまでの間,ストップすることになるのです.

 

 ハーグ条約についての詳しい説明や最新の情報は,外務省ホームページ

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/hague/index.html

で得ることができます.

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